篠笛に関する悩みで一番多いのはやっぱり「音が出ない」というところではないでしょうか。篠笛は、わずかな息のコントロールで音色を操る、奥深い魅力を秘めた楽器です。
篠笛はエアリード楽器の一種です。同じカテゴリにあるリコーダーと違い、発音するための構造を奏者の息で直接作る必要があります。だからほんの少し息の角度がずれただけでも音が出なくなってしまいます。
音が出ないにもいろいろあります。本当の初心者だったらそもそも最初から最後まで音が出ないでしょう。
ところが練習ではある程度音が出るようになったとしても本番では出ないとか、出だしはそれなりに音が出るのにだんだん出なくなって最後にはまったく出ないとか、本番の出だしはどうしても音が出なくて、途中から出るようになるとか…。色々な悩みがあると思います。
篠笛の演奏技術に対する評価基準は様々ですが、音が出るか出ないかの境界線はとても大きいものです。とりあえず音が出ていたら「笛が吹ける」といっていいでしょう。
私の場合はひよっこの状態から、とにかく本番の機会だけはたくさんありました。初心者の頃は他の多くの笛吹きがそうであったように、本番では最初から最後までほとんど音が出ないで終わるというところから始まりました。
数年かけて経験を積んで、だんだん音の出る時間が長くなって、本番で多少の番狂わせがあっても、多少疲れていて調子が悪くても、音が出ないということはない状態まで持っていくことができました。
そういう環境に身を置くことができたのはとても幸運だと思います。
今でも調子が最悪な時や段取りが悪かったりトラブルがあったりとかで、 ほとんど思い通りにならないまま終わってしまうこともあります。しかし、それでも後で撮影された動画を確認すると全体的に音は鳴っているという感じです。
だから音が出ないという悩みは慣れで解決します! 場数です! 様々な環境で演奏することで、風の影響や気温、湿度、反響音の違いを感じ取り、自分の奏法を調整できるようになります!
…といってしまったらあまりにも読者を突き放している気がするのですが、それも一つの答えです。
では、なぜ練習の時は音がちゃんと出るのに本番になると音が出なかったりするのでしょうか。
それは篠笛の音の出る「正解の角度」というのが毎回コロコロ変わるからなのだと思います。横笛で音を鳴らすには「息をエッジに当て半分を管の中にいれて、残りの半分は外に出す」とまるで公理のように習ったと思いますが、これって実際は室内と室外でも違いますし、会場によっても時間によっても風向きによっても変わります。なぜ? と聞かれても私には理由はわかりません。笛の先輩もそう言っていました。経験的に篠笛はそういう楽器なのです。
もちろん笛の形なんて多少温度や湿度が変わったくらいでは変わらないはずです。人間の唇も練習と本番で、昨日と今日で変わるものではありません。でも不思議と「正解の角度」は変わるものなのです…。
もちろん共通する傾向はあります。呂音はやや内向きにふいて息のスピードはゆっくりにしたほうが音が鳴りやすい、甲音は息を外に出してスピードを上げるほうが音が鳴りやすい、とか。
それはわかっていても音が出なくなるという人も多いと思いますが…。
だから練習の時は思いっきりいろんな角度からいろいろな方向でいろいろなスピードで吹く練習をするのがいいと思います。あえてずれたことをするんです。
息の角度やスピードだけでなく、普段より笛を離してみたり近づけてみたり、少し上に置いてみたり下に置いてみたり、回してみたり…。
そしてあえて音が出ない状況をつくったりして、その境界線を探ります。
それと場所も色々変えて、風の強い日の公園、高波の日の海辺、とかできる限りでバリエーションを増やしていきます。
本番では正解の角度はダイナミックに変化するものだと考えて、あらゆる可能性を探ります。
そうすると、多少は本番での正解に近づけることができるかもしれません。